何に入るのか?メリー・ポピンズ リターンズ「小さな火を灯せ」の歌詞「入れよメリー・ポピンズ」

お直しレベル:低(短めの記事です)

今日の気になる訳詞

映画メリー・ポピンズ リターンズの “Trip a Little Light Fantastic”(邦題:小さな火を灯せ)より。

子どもたちとメリーが言葉遊びを楽しんだ後、大勢の点灯夫がメリーを取り囲んで一斉に

Join us, Mary Poppins!

と言うシーン。

その訳詞は

入れよ メリー・ポピンズ

となっていますが、なんとなく違和感があります。

 

“join”の意味

“join”は辞書的には「他者が行う活動に加わる」ことを意味しますが、機械的に「加わる」と訳しておけば良いわけではありません。

 

ひと昔前、子ども向け英会話教室か何かのCMでこんなシーンがありました。

公園でサッカーをしている日本人の子どもたちを外国人の男の子が見つめている。転がったボールを拾ってくれたその子に、日本人のうちの一人が “Join us!”と声をかける…

それに対する字幕は「一緒にあそぼ!」でした。

仮に「加わって!」などと訳されていたとしたら、何のことだか分からなくなっていたでしょう。

 

他にも、例えば何人かでパーティーに行く話をしているときに “Join us!”と言えば「一緒に行こう」という意味ですし、言葉を付け足して “Would you join us for dinner?”と言えば「夕食をご一緒しませんか」という意味になります。

このように、 “join”という語は「活動」の内容によって訳し方が異なります

“join”は活動の内容に注目
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訳詞の問題点

メリー・ポピンズの上述のシーンで点灯夫たちが行う「活動」は何かというと、ダンスです。

“Join us!”と言われたメリーは実際に点灯夫たちの輪に加わり、一緒に踊り始めます。

英語ではなんの違和感もありませんが、訳詞「入れよ」はやや漠然としているような…

「何に入るのか」を瞬間的に正しく理解できず、「(ダンスの輪に)入れよ」という意味にたどり着くのは、メリーが点灯夫たちと踊り出してからです。

もちろん、「入れよ」+「メリーを取り囲む楽し気な点灯夫たちの映像」の組み合わせによって、点灯夫たちが言わんとすることの大体のニュアンスは誰もが掴めるでしょう。

ただ、「瞬間的に正しく理解できない」ということが、ここではちょっと問題ではないかと思います。

 

私は常々、ミュージカルの歌詞は必ずしもその場ですぐに理解できるような易しいものである必要はなく、むしろ観客に考えさせる余地を残すくらいで丁度良いのだと思っています。

日本語の歌詞は英語に比べて詰め込める言葉の数が圧倒的に少ないため、分かりやすさを追求しすぎると、原文の上澄みだけすくったようなペラペラの歌詞になってしまうからです。

 

ただ、この場面は軽快な言葉遊びと躍動感溢れるダンスに続き、いよいよ曲のクライマックスに向かおうとしているシーンです。

解釈の幅のある歌詞によって一瞬でも観客に考える隙を与えれば、盛り上がりに水を差してしまいかねません(実際に私は「ん?」となりました)

分かりにくい歌詞がクライマックスの熱気を盛り下げる

 

訳詞のお直し

以上の理由から、この場面では観客を惑わすことなく問答無用でリズムと勢いに乗せられる、一義的な歌詞の方が適しているように思います。

そこで、

踊ろう メリー・ポピンズ

とお直ししてみました。

「踊ろう」というシンプルな言葉で、これから何が行われるかをすっきり明快に示しています。

この作品は映画の吹き替えなので、口の動きを原文と極力合わせないといけないようです。

その点でも、出だしの「オ」の口が “join”と合う「踊ろう」は適しているのではないかと思います。

 

まとめ

今回のお直しのまとめです。

まとめ

一見するとなんの捻りもないように思われるお直しですが、単純明快さが求められる箇所であれば戦略的にとことんシンプルにすることも大事なのではないかと思います。

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